EXHIBITIONS

ヴィルヘルム・サスナル

会期: 2023年9月2日(土) – 10月14日(土)
会場: タカ・イシイギャラリー 京都
オープニング・レセプション: 9月2日(土)17:00 – 19:00

タカ・イシイギャラリー 京都は、9月2日から10月14日までヴィルヘルム・サスナルの個展を開催いたします。当画廊でサスナルの作品を紹介する初の機会となる本展では、昨年のロサンゼルス滞在時の経験に触発されて制作されたシリーズを中心に、一連の近作絵画を展示いたします。

サスナルの作品の突出した特徴として、本人の撮影による日常のスナップショットから、雑誌、新聞、オンラインから借用したファウンド・イメージの個人的なアーカイブまで、その視覚的な参照元の多様性が挙げられます。いまや絵画鑑賞はデジタル画像の横溢する環境下で為されますが、彼はそのフィジカルな経験としてのあり方を、写真素材を選択しメディアを越境することによって問い直します。結果的に出力される作品が、ミニマルかつ思考喚起的な舞台装置によって呼び起こすのは、親近性と乖離性という両義的な感覚です。

サスナルは1972年にタルヌフで生まれ、共産主義下のポーランドで育ちました。10代前半の頃、彼は地元のラジオ局から流れる西側のゴシック・ロックやメタル・ロックに耳を傾けていました。それを通じて視覚芸術の様々な実践やバウハウスなどの動向と出会い、アルバムのカバーやバンドのロゴを自身の作品のモチーフとして見出すことになります。美術大学に進むと、在学中に級友たちとアナーキーな集団「Grupa Ładnie」を結成、さらに自身の実践として写真に基づいた絵画への取り組みを開始しましたが、どちらもアカデミーの保守的な教育に反旗を翻すものでした。

サスナルは近年、その実践を通じて、具象と抽象の関係を探究しています。サイクリングへの彼の熱意から生まれた作品《アスファルト1》(2022)の画面は、力強い筆致で描かれた黒い線や形の戯れによって構成されており、図と地の関係性のふたつの層──何もない空間に描かれた花瓶、そしてその前面に浮遊する、アスファルト上に自転車が残した円状の形跡──がひとつのキャンバスに共存しています。前者の三次元的なイリュージョンに、後者の二次元的な平面性が介入するのです。別の絵画《無題》(2022)では、金網の向こう側の景色が、ピンクと灰色のシュールな混合に青が加味されることで出来上がっていますが、その階調は地平線に近づくほど暗くなっています。この2点の絵画は、具象を介して抽象に目を向けるサスナルの視線を体現すると同時に、絵画という媒体の歴史を形づくってきた具象/抽象という二元論へと鑑賞者の思索を誘います。

サスナルの筆致は絵画の表面にそのまま保持されていますが、そのフィジカルな運動には、彼の認識のプロセスそのものが刻み込まれています。無数のピクセルで現実のあらゆる細部を捉えるデジタル写真とは異なり、その手順は極めて縮減的で、固定された解釈を拒みます。参照元となる画像はしばしば部分的に切り取られ、背景は多くの場合、空白のまま残されているか単一の色相で覆われており、画面全体の色数も入念に抑えられています。こうした要素が組み合わさった彼の作品は、記憶の本質と共鳴するものです。どちらも日常的な経験の断片的かつ主観的な抽出であり、そこには過去との繋がりが、現在の受け取り方に影響を及ぼす力が、そしてそれらの併存によって新しい意味を創出する潜在可能性が備わっているのです。

ヴィルヘルム・サスナルは1972年ポーランドのタルヌフ生まれ。現在クラクフを拠点に活動。1992年から1994年までクラクフ工業大学で建築を、1994年から1999年までヤン・マテイコ美術アカデミーで絵画を学ぶ。近年の主な個展に、ポーランド・ユダヤ人歴史博物館(ワルシャワ、2021年)、バイエラー財団(リーエン、2017年)、ハウス・デア・クンスト(ミュンヘン、2012年)、ホワイトチャペル・ギャラリー(ロンドン、2011年)、スイス・インスティテュート(ニューヨーク、2007年)、クンストハレ・チューリヒ(2003年)など。「Capturing the Moment」テート・モダン(ロンドン、2023年)、「I am you, you are too」ウォーカー・アート・センター(ミネアポリス、2017年)、ワルシャワ映画祭(2016年)、ベルリン国際映画祭(2014年)、第31回サンパウロ・ビエンナーレ(2014年)、「The Reach of Realism」ノースマイアミ現代美術館(2009年)などのグループ展や映像祭に参加。

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